オーストラリア日焼け止めのSPF信頼性に関する疑惑

すみしょうです。日焼け止めを開発する私として、看過できない衝撃的なニュースが出ました。

「SPF50+」のはずが、実際の効果は「SPF4」!?

2025年6月11日、オーストラリアの消費者団体「CHOICE」が、市販の「SPF50+」日焼け止め20製品の効果をテストしたと報じられました。

そしたら、なんと…

20製品のうち16製品が、「SPF50+」の基準を満たしていなかったのです。

ひどいものだと、実際の測定値が「SPF4」だったという報告も…。

これじゃあ、信頼して使っていた消費者からすると、裏切られた気持ちになりますよね。

ここからが、開発者である私たち、そしてユーザーの皆さんにとっても、少しゾッとする話になりますが、

これは実は、私たちの日本製品でも起こりうることなのです。

なぜ、こんな事態に?カギは「不自然なデータ」

調査を進めると、これらの不合格品の多くが、アメリカの特定の試験機関「プリンストン・コンシューマー・リサーチ(PCR)社」でSPF試験を行なっていたことが分かりました。

この話を理解していただくために、まずSPFがどうやって測られるか、そのルールを簡単にお話ししますね。

日焼け止めに書かれているSPFの数値。実はこれ、メーカーが自社で測定しているわけではないんです。

必ず、外部の専門的な試験機関に依頼して測ってもらわなければならない、というルールがあります。

そして、その試験機関は、世界共通のルールであるISO(国際標準化機構)で定められた試験法にのっとって測定するのが一般的です。(ちなみにSPF測定はISO 24444という規格で決められています)。

では、どうやって測るかというと、実際に10名ほどの人の背中に協力してもらいます。

SPF測定の場合は、日焼け止めを塗った肌と、塗っていない肌に一定の紫外線を当てて、『どれくらいで肌が赤くなるかを試験担当者が目視で判断する』という方法です。

ここで、問題になっている外部試験機関であるPCR社の報告書ですが、何が問題だったかというと。

「データが綺麗すぎる」

というものでした。

オーストラリアの公共放送ABCニュースの報道(YouTube)によると、

「ある試験報告書では、9人の被験者全員が小数点以下まで全く同じSPF値だった」

「他の報告書でも、8人が全く同じ結果だった」

という説明が。

イメージとしては、

被験者1 SPF 62.00

被験者2 SPF 62.00

被験者3 SPF 62.00

みたいな感じです。

報道で登場した日焼け止めの専門家は、小数点以下まで同じ結果になるのは不自然とコメント。

オーストラリア政府当局は、消費者団体CHOICEの指摘を受けて、この問題を調査する姿勢とのこと。

そうなんです。

実は日焼け止めの試験結果、人によってかなりバラつくんです。小数点以下まで全く同じはおかしい。

個人的には、2017年にアメリカの別のSPF試験機関で起こった、データ捏造問題と同様のことが起こっているのでは?と疑っています。

実はこれ、他人事ではなく、私自身も過去に、『データ捏造』を疑う経験をしました。

すみしょうの過去の日焼け止め開発経験と反省

私が会社員(OEM研究)だった頃、「クライアントの要望通りのSPF値を出す」ことが命題でした。

当時はSPF測定機関にこだわりはなく、特に差はないと思い、主にアメリカに出してました。

そして、想定したSPFが普通に返ってくるので、なんの疑いもなく開発は進んでました。

そんなある時、中国に輸出しなければならない日焼け止めがありました。中国って化粧品の規制がかなり厳しく、日焼け止めを輸出するには、中国でSPFの再検査がされることがあります。

そこで出たSPF結果がなんと、アメリカで出た数値の1/3ほど。

そんなバカな・・・。

そこで、いろんな試験機関に依頼して再検査をしてみました。

すると、わかったのが、アメリカの試験機関Aはちゃんと出る。日本の試験機関Dはめちゃくちゃ低く出る。

まとめると、

アメリカA→想定通り

日本D→めっちゃ低い

中国→めっちゃ低い

何が正しいのか。。。よくわからなくなってきました。

そんな時、ふと疑問が。

「そういえば、アメリカ試験機関Aは、こちらが想定した通りにSPF数値が出てきて、失敗したことないな」

と、なんかおかしいなと思い始めました。

そこで試しに、実験してみたんです。

同じサンプルを、それぞれ別のSPF値であるかのように見せかけて、3つに分けて提出しました。

するとどうなったと思いますか。

もう昔のことなので正確な数値は忘れましたが、こんな感じで出てきました。

SPF 15(推定通り)

SPF 30(推定通り)

SPF 50(推定通り)

と返ってきたのです。

上記の数値は、すべて同じサンプルです。

周りにいた同僚も驚いてました。

そして、ちょうどその頃、その疑惑の会社がなんと、アメリカのFDAの捜査により、データ捏造等の不正な試験をしていたことが判明し、首謀者であるオーナーは有罪判決を受けたようです。

それに比べて、結果の出にくい日本の試験会社Dさん。本当は真面目にやってるだけなのに、あそこは数字が出ないから出したくない。

なんて思っていた自分、バカでした。

疑うべきは自分たちの処方なのに、Dさんにはもう出さないなんて、完全に私の過ちでした。

本当にユーザーのためになっていなかったなと、今では猛省しています。

本当にちゃんとした日焼け止めを作りたい

だから私は、独立して自分のブランド「SOUPLESSE(スプレーゼ)」を立ち上げた時、日焼け止めの開発は、あの「厳しい」日本の試験会社Dさんにお願いすると心に決めていました。

案の定、最近の日焼け止め開発では、全く想定の値が出ず、何度も何度も処方改良を重ね、試験にかかる費用も数十万円に…(笑)。

でも、その苦労の末にようやく、「納得のいく数字」が得られました。

やっぱり被験者ごとにデータはばらついてます。試験が成立するかどうかの際どいばらつきでした。(汗)

日焼け止め開発は他のスキンケアとは違い、「数字」が求められます。

「数字が出やすい」という誘惑は、開発者にとって常に隣り合わせの悪魔です。

しかし、その楽な道を選んだ瞬間、私たちは一番大切な「消費者の肌を守る」という原点を忘れてしまう。今回の件は、そのことを改めて業界に突きつけたなと思いました。

私はこれからも、たとえ時間や費用がかかり、不器用に見えたとしても、決してその原点から目を逸らさず、信頼できるものづくりを続けていきます。

また、信頼できる製品選びをサポートできるように、色々と評価・検討していきたいと思っています。

以上、長くなりましたが、ご参考まで。

PS

しかし、データ捏造問題だったとして、なぜ起こりうるのか。

考えてみると、SPF測定の重要なポイントとして、「メーカーが、推定SPF値を試験機関に提出する」という点があります。

なぜかというと、被験者の負担を減らすためです。

ある程度の推定SPFがないと、紫外線の強さをどれくらいに設定したら良いかが分かりません。

SPF20くらいしかないのに、SPF50を測定するような強力な紫外線を使うと被験者負担が大きくなってしまいます。なので、あらかじめ推定SPFを提出するのです。

被験者保護という点ではこのルールは必要だと思いますが、ここがデータ捏造の温床にもなるのではと思っています。

ちなみに、オーストラリアの専門機関は「SPF50とSPF25の防御力の差は、多くの人が思うほど大きくない」とも言及しています。

私も日常生活であれば、SPF20〜30で十分と考えており、十分な量をムラなく塗り、汗水擦れで流れるならば、こまめに塗り直すことが大切と思います。


参考記事一覧(タップで開きます)

・CHOICE(オーストラリア消費者団体)の調査報告

16 of 20 sunscreens didn’t meet SPF claims in CHOICE test

・ABCニュース(オーストラリア放送協会)の報道

Choice report finds popular Australian sunscreens fail to meet SPF claims on label

・ABCニュース(オーストラリア放送協会)の報道

Experts raise concerns over lab used by sunscreen companies to certify SPF claims

・TGA(オーストラリア保健省薬品・医薬品行政局)の公式声明

TGA statement on CHOICE SPF sunscreen findings

・オーストラリアABCニュースの動画(YouTube)

https://youtu.be/-kK2jKz5vv0?si=MHPvevWqSgNIrdg6

・アメリカSPF試験機関の不正について

Owner Of Consumer Products Testing Company Sentenced To 60 Months In Prison For Fraud Scheme Involving Fabricated Test Results


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA